1996年 10月号

タンギング

 

 皆さん、元気ですか?今月は「タンギング」の話をしましょう。タンギングという言葉は皆さんよくご存じですよね。・・・そう、舌をつくことです。タンギングには、「発音」と「分節」という目的があります。

発音 〜タイミングと位置をつかまえろ〜

 「発音」のためのタンギングは“トロンボーン吹きは発音が命”の号で少し話しましたが、ポイントは次の2つです。
1)舌をつく絶妙なタイミングをつかまえること。
 息の塊(かたまり)が出る、その瞬間にタイミングを合わせてすばやく舌をつくようにする。先に舌をついておいて、息の圧力をかけから放すという方法もあることはあるのですが、中・高校生の皆さんの場合、のどや肩、舌などに力が入る危険性があるので、まずは上記のタイミングあわせの方法をお薦めします。
2)舌をつく適切な位置を発見すること。
 
舌をつく位置は歯並びなどによって個人差が生じるばかりか、音の高さによっても変化します。変化の範囲は図@に示したとおり、口の中心での上下の変化です。まれに唇に直接舌をつく人や、舌先が舌の歯の裏についていて、舌先よりも少し奥の部分でタンギングすることで成功しているしている人もいるようですが、こういうケースに関しては私のアドヴァイスできる範囲を越えています。まあ、どんな方法にせよ、美しく明確な発音ができればよいのだから、自分の音を良く聴いて判断しながら良い場所と良い方法を見つけだしてください。一般的に接点は、音が高いほど高い位置(Bの方向)に、いわゆる出っ歯の人ほど高い位置(Bの方向)に変化している傾向にあるようです。参考にしてみてください。

分節 〜息は素材、タンギングは包丁さばき〜
 
「分節」のためのタンギングとは、皆さんがいつもタタタタターとやっているあれです。流れている息を舌の動きによって分割してあげることです。これを上手におこなうヒントは、お母さんの包丁さばきにあります。
 まず、譜例@の音をロングトーンしてください。先月号で説明したとおり、羊羹のようなまっすぐな音形でのばすことが大事です。(図AA)
 今度は、ロングトーンしている最中に舌を2回ついてみてください。この時、息の圧力やアンブシュアを一切変化せず、舌だけが動くことが重要です。音と音の間に隙間ができたり(図AB)、ひとつひとつの音の終わりが減衰しないように(図AC)気を付けましょう。理想的な音のイメージは図ADに示したように羊羹に包丁を入れたような形です。

 次に譜例Bを吹いてみましょう。お母さんがキュウリの酢の物をつくろうと薄い輪切りをしているところを想像してください。トントントントンと実に小気味よいリズムで同じ厚さのスライスができあがっていきます。実に見事なものです。(最近はどうなのでしょう・・・2005大内)しかし、このきゅうりが例えばフニャフニャの「ちくわ」だったらと想像してみてください。・・・恐らくこううまくはいかないでしょう。
 タンギングの場合、このキュウリやちくわにあたるのが息、包丁にあたるのが舌です。包丁の切れ味やその扱いもさることながら、最も重要なのはキュウリの堅さです。キュウリは程良い堅さを持っているため、あんんなにスムーズに均等に切れるわけです。
 息だってそうです。舌の動きに押しつぶされて変形してしまうような軟弱な息では譜例Bのようなパッセージを美しく均等には吹けません。しっかりした圧力があり、直進性のある息が送れるようになれば、蒙古のタンギングは8割できたようなものです。とにかくポイントは「息」です。あとは「発音」のタンギングと同様、効率よく、しかも美しく均等に「分節」できる接点を見つけることです。

 タンギングには色々な種類がありますが、今回話したのはもっとも基本的なものです。舌の接地時間や接地面積、息の圧力などの変化によって様々なヴァリエーションが可能ですが、これはそのテーマになっているものです。しっかり身につけておきたいものです。