1996年 7月号

トロンボーン吹きは“発音が命”

 

 皆さん、私の紹介したトレーニングを地道に続けていますか?筋力トレーニングは一度にたくさん行なってもかえって逆効果だし、思い出した時だけやっても全く無意味です。筋肉はそういう仕組みになっています。だから、毎日少しずつでも継続して行なうことが一番大切。怠けていた君は今日からでもがんばって。

 

発音は“息が8割、舌が2割”

 最近、中高校生を指導する機会があったのですが、彼らのトラブルの多くは呼吸の貧弱さによるものでした。豊かで力強い呼吸は本当に色々な問題を解決します。今月話す「発音」についても全く同じです。

「芸能人は歯が命」なら「トロンボーン吹きは発音が命」です。発音とは音を出すこと、特に音の出はじめの部分に関係する言葉です。トロンボーンに限らず金管楽器は皆、唇が振動することによって音が出ます。唇が息の流れによって振動をはじめ、その振動が安定するまでの0.1秒にも満たない短い時間を「立ち上がり」と呼んでいます。音の始まりが「プルー」とか「スパー」とか「パンー」などと違って聞こえるのは、この「立ち上がり」方がそれぞれ違うのです。
 トロンボーンの「立ち上がり」は唇の反応とタンギングによって左右されます。中高校生の場合、発音に際してタンギングに頼りすぎる例を多く見ます。

 図1を見てください。これは音の立ち上がりのイメージを表したものです。

Aのように、ある点からカッチリ始まってまっすぐ伸びるのが基本です。「パー」とか「プー」というように素直に音が始まります。これはオルガンの鍵盤を押した時にでる音がお手本です。

Bはタンギングに頼りすぎた例です。「パンー」とか「パゥー」というように最初だけが強く聞こえ、破裂したように感じます。

Cも同じようにタンギングに頼りすぎて、最初に音程を伴わないタンギングの音だけがしてしまう例です。「トゥハー」というように聞こえます。

Dは唇の反応が悪いか、タンギングの方法が悪いかで、どこから音が始まったのか明確でない場合です。「スパー」とか「ンアー」というように聞こえます。

BCDの自覚症状がある人は「発音は息が8割、舌が2割」のバランスをいつも心にとめておいてください。

上手に発音するには、タンギングなしで図1のEのように立ち上がれることが必要です。タンギングは発音にとっては補助にすぎません。すばやく反応する唇のコンディションと反応を導く豊かな息を整備しましょう。

 

●クリアな立ち上がりを目指せ!

先月号ではバズィングをして唇の振動を捕まえました。今月はいよいよ楽器をつけてタンギングなしで譜例1, 2, の練習をやってみましょう。クリアな立ち上がりを常に意識し、唇の間の隙間(アパチュア)に息を流すというイメージを忘れずに吹いてください。
私の経験からすると、息の初速度が肝心で、ある程度の塊で息を送ることがコツのようです。
バズィングと同じで上手に振動してくるまでが大変ですが、目的意識をしっかりもって、諦めずにがんばってください。最初は出しやすい音域で。慣れてきたら上下に広げていってください。そして、出来るようになったら今度は息の塊をだすその瞬間に、本当に軽く舌をついてみてください。これはタイミングが重要で、強さは必要ありません。舌が接触している時間はできるだけ短くしてください。舌も使って譜例1, 2, を吹いてみてください。
次号は、少し長く音を吹いてみましょう。