インタビュー「憧れの人の生き方に学ぶ」

〜大内邦靖さんに聞く〜

聞き手;埼玉県の中学3年生 K. N. さん

☆インタビュー

Q.大内さんが中学生だったころは、どんな生徒でしたか?入っていた部活や、その様子、また毎日どんなことをしていたか、どんなことを考えていたか、など教えて下さい。

A. 私は静岡県・・・富士山のふもとの茶畑の中にある中学校に通っていました。トロンボーンは小学校の5年生のときから、学校の金管バンドで始めていて、中学でも当然のように吹奏楽部に入部しました。大好きでしたから、一生懸命活動していましたが、なにしろ田舎の中学校で、顧問の先生も吹奏楽や楽器に関しては大したノウハウを持っていなかったため、ものすごく下手なバンドだったのを覚えています。コンクールでは地区の予選でいつも敗退していました。当時は、インターネットなんてありませんでしたし、こんな田舎にプロの演奏家が来たりすることもほとんどありませんでした。トロンボーンのレコード(当時はCDはありません)も皆無に近い状態でしたから、吹奏楽雑誌が唯一の情報源だったように思います。・・・といっても、私はそれすらろくに読んでいませんでした。ほぼ独学に近い状態でトロンボーンを吹いていたことを、今となってはとても後悔しています。

いま、こういう職業に就いて、正しく有益な情報を届けることの重要性と責任を痛感しています。トロンボーンや管楽器、そして合奏がある程度できるようになるには、才能はほとんど関係ありません。正しい情報と努力があれば誰でもできることですからね。

当時は、まさか自分が演奏家になろうとは考えもしていませんでした。両親が学校関係の仕事をしていて、結構厳しかったので、男が音楽なんかやる・・・ましてや、それを職業にするなんてことは、許されない雰囲気でした。今では、考えられないですけどね。理工系の職業につくか、教師になる・・・といった漠然としたヴィジョンを抱いていたように思います。そういえば、編曲に興味を持つようになったのはこの頃だったな。文化祭でのステージ用に各楽器の楽器紹介用の短いアンサンブルをアレンジしたり、当時最新の歌謡曲(いまはJ-POPとかいうのかな?)を吹奏楽用に書いたりしてましたね。今聴くとひどい出来ですが、この経験は現在に繋がっているかもしれません。そんなところですかね。

 

Q.進学するときは、吹奏楽部のことを意識して高校を選んだんですか?

A.高校は、吹奏楽とは全く無関係に進学しました。田舎では、ほとんど選択の余地がなかったです。いわゆる進学校ってところでしたが、ここで地元の上手な学校出身者達と一緒になったところから、音楽への思いは加熱したんだと思います。基本的に、学生指揮で自主自立の精神の旺盛な部活でしたが、コンクールで卒業生の先輩に指揮をお願いして珍しく県大会に進みました。次の大会へは残念ながら次点で惜しくも進めませんでしたが、この学校の歴史上は快挙でした。この時点では演奏家になることを具体的に考えていたわけではありませんが、なんとか厳しい親を騙して(?)大学でトロンボーンを勉強したいという気持ちになり、準備をはじめた頃です。

 

Q.演奏家を本気で目指し始めたのはいつ頃からだったんですか?

A.実際に演奏家として「いける!」と思ったのは、大学院を修了する頃、オーケストラのオーディションの最終選考に残るようになってからですかね・・・・かなり遅いと思います。

 

Q.中学時代、部活以外になにか夢中になったことはありましたか?

A. 中学時代夢中になったことねぇ・・・・トロンボーンを吹くか音楽をやっていたこと以外はほとんど覚えていません。基本的に趣味らしい趣味もなく、つまらない中学生だったんじゃないかな?

 

Q.続いて、演奏家という職業についてきかせて下さい。演奏家になって、よかったな〜と思ったことは、どんなことですか?

A.演奏家になってよかったことは・・・・・コンサートの後、満場のお客さんから盛大な拍手をいただいたときは、この上もなく幸せですね。別にお客さんのために演奏しているわけではなく、音楽そのもののために演奏しているのだけれど、それにお客さんが共感してくれて、ともに同じ芸術の深みを覗き込むことができた実感のあるときは、ほんとに演奏家やっててよかったなぁと思います。そう滅多にないけどね。

 

Q.では逆に、大変だな〜と思ったことはどんなことですか?

A.いつもいつもトロンボーンに縛られていること!!
コンサートの本番をしている時だけが演奏家の仕事ではありません。もちろんリハーサルもありますが、お休みの時ですら、演奏家としての技術・音楽水準を保つために努力していなければいけないところは、ものすごく大変!!トロンボーンがご主人様で、演奏家は楽器に飼われているように思えるときすらありますよ。トロンボーンから開放されたらどんなに楽だろう・・・・でも、どんなにつまらないだろうと思います。矛盾してるよね!

 

Q.演奏家という仕事をしていて、何か不安になることはありますか?演奏会の前は、プロでも緊張するんですか?

A.演奏家の不安や緊張についてですか?それはいつも付きまとっていますよ。特に金管楽器ですから、音が外れる確率をゼロにすることは出来ません。大事なところで音が外れたらどうしよう・・・という不安といつも戦っているといっていいでしょう。だからこそ、基礎的な練習を綿密に重ねておくことが欠かせないわけです。金管楽器の演奏家は、絶対出来る・・・という自信ができるほど準備しておかないと、本当に怖くて、不安な職業です。もちろん、どんなに努力しても、いつもパーフェクトというわけにいきませんから、緊張もしますよ。その緊張をコントロールして、最高点とはいきませんが、常に合格点をとることもプロの仕事の重要なところです。

 

Q.今後、どのような仕事をしていきたいですか?

A. 音楽で仕事をするということは、時に対立する2つのことのバランスをとらなければなりません。それは、生活のために「金を稼ぐ」労働としての音楽と、価値あるものを追求する「芸術活動」としての音楽です。大人が家族や自らの生活を維持していくためには、お金を稼がなくてはなりません。金はいらないから、演奏させてください!・・・というのは、アマチュアの考え方です。ただ、たくさんのお金が稼げる仕事がいい仕事かというと、必ずしもそうではありません。芸術的に低いレベルで音楽をやって、いくらお金をもらっても、本当の満足は得られません。仕事としての音楽と芸術としての音楽が出来るだけ両立できるような仕事を今後も求めていきたいと思っています。
あと、最近は研究職や教育の分野にも関心がありますので、演奏の仕事のかたわらですが、熱意をもって取り組んでいます。まあ、そんなところです。

 

Q.大内さんにとって、トロンボーンを一言でいうと、なんですか?

A. ううん・・・今回の質問は難しいですね。漠然としていて、どうお答えしてよいか悩みます。強いて言えば「音楽をするための大事な道具」かな?

 

Q.トロンボーンを吹きたくないな〜と思うときはありますか?

A. 私たちトロンボーンの演奏家は「演奏家」でいる限り常にトロンボーンに縛られているといっていいでしょう。特に、私の場合は、病気の後遺症などのハンデキャップを抱えていますので、日々、プロとしての水準を保つためのトレーニングが欠かせません。すべて忘れて、思いっきり遊びに行ったりもしたいですし、怠けてだらだらとお休みしたいときもありますが、トロンボーンがうまく吹けないときの精神的な苦痛を考えると、なかなかできません。練習をしなくても、上手に演奏できるのなら、おそらく私は練習しないでしょう。そういう意味では、ほとんどいつもトロンボーンを吹きたくないのかもしれません。トロンボーンが思うように演奏できないときは、生活全体が暗く、イライラしたものになってしまいます。レジャーを楽しんでいるときも、食事をしているときも、自分がある程度(いつも完全ではありませんが)トロンボーンの演奏技量について満足していないと、心から楽しめる時間にはなってくれません。だから、トロンボーンを吹きたくないなんて、言っていられないのが現状です。・・・答えになっていないかもしれませんね。

 

Q.プロの大内さんにとって、音楽をするということは、どういうことですか?

A. 若い頃は、お客さんのために音楽する・・・お客さんを喜ばせることが目的・・・のように音楽を捉えていたように思います。エンターテーメントって感じですかね。最近はお客様のために演奏していない自分を感じるときがよくあります。音楽そのもののために演奏している現場に、たまたまお客様が居合わせた・・・って感じですかね。分かりづらいかもしれませんね。

演奏するその音楽の中に内在する美しさ(醜美をふくめた音楽性)を自分自身が体感できるまで、潜りこんでいこう・・・あるべき美しさの領域まで心が達するようにしよう・・・と一生懸命がんばってます。そのためには、演奏技術も必要ですし、音や音楽に対する知識や感覚のトレーニングも必要です。集中力を発揮できる精神的強さも必要ですね。ステージの上で、音楽の深い部分に達する作業(?)をしているときに、たまたま客席にお客さんがいる・・・・そして、私が心から真剣に音楽に潜り込んでいく身勝手な作業に共感してくれたなら、たくさんの拍手をくださる・・・そんな風に考えるようになりました。・・・もっと分かりづらくなったかな!?

自らの感性に従って、自分なりの音楽を追求するわけですから、結果的には「自己表現」といえるかもしれません。ただ、「僕はこう思うんです!聴いてください!どうですか?どうですか?」・・・っていう積極的な自己表現・・・「自己表現のための自己表現」ではないように思っています。
難しいかな??

 

Q.今の中学生にメッセージをお願いします。

A. そろそろみんなそれぞれに大好きなことが見つかってくる頃ですよね。K.N.さんのように、音楽大好き!トロンボーン大好き!って、大好きなことが見つかった人はとても幸せだと思います。ただ、みんながみんなK.N.さんのようではないでしょう。自分が本当に大好きなことを見つけられずに、自分というものをうまく形作れずにいるのではないでしょうか?そういう皆さんは、ぜひいろいろなことに飛び込んで、とりあえずやってみることも必要かもしれませんね。言い訳や理屈をこねるとキリがないのですが、とりあえず実際にやってみて、自分の本当に好きなことに出会うチャンスを増やしてほしいと思っています。出会ったときには、きっとピピピっとくるものがあるでしょう。それが見つかれば、あとはあんまり心配いりません。「好きこそものの上手なれ」みたいなことわざがあるように、道は勝手に開けていきますからね。そうやってここまで来てしまった「おじさん」が言うのですから、間違いありません。
大変なこともいっぱいありますし、人から誉められるような人生ではありませんが、本人はとても幸せですよ!

♪今回は取材に応じていただき、ありがとうございました。

 

☆取材を振り返って

 大内さんは、どの質問にも丁寧に答えて下さり、本当にいい人だな〜と思った。また、インタビューをしていて、私も大内さんのように、将来自分の好きなことを職業にできるように、努力していきたいと思った。
 今回は、メールのやりとりでのインタビューだったので、直接お会いすることはできなかったけれど、私にとって意義のある、とてもよい勉強になったと思う。

☆取材日 2007年7月21日〜8月7日

 

このインタビュー記事を公開するにあたり、インタビュアーのK.N.さんよりオリジナルメッセージをいただきました。

K.N. さんからのメッセージ

 私が大内さんを知るきっかけとなったのは、「トロンボーンとピアノのために」という曲のCDです。それはとても素敵な演奏で、私は感動しました。そして、このような演奏をする人は、どんな人なんだろうと思っていました。
そんなとき、学校の総合的な学習で、「憧れの人の生き方に学ぶ」という授業があり、自分の憧れの人にインタビューをすることになりました。
そこで私は大内さんにインタビューをしたいと思い、申し込んだところ、快く受けてくださいました。
大内さんは、どんな質問にも丁寧に答えて下さり、プロの仕事の厳しさや喜びを学ぶことができました。本当にありがとうございました!

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