1996年 8月号

ロングトーンは基本中の基本(1)

 

 みんな元気?今月は忙しいのでチャッチャッチャーッといくから、おいていかれないように心してかかってくれ。
 今月のテーマ「ロングトーン」は、先月号までの内容をクリアしていないとちっともうまくいかないから、忘れちゃった人はこれを読む前にバックナンバーを読み返しておいた方がいいぞ。覚えている人も、以下の項目をしっかり準備してから取り組んでくれ。
1)とにかくリラックスする。
2)肺を広げる。
3)バズィングで唇の振動をつかまえる。
4)ノータンギングで発音の練習をしておく。
(できるようになったら、タンギング付きで。)

 

●“トロンボーン吹きはロングトーンが命”

 ロングトーンは意外に難しい。料理の世界では“卵料理にはじまり卵料理に終わる”といわれるそうだが、トロンボーンの世界では“ロングトーンにはじまりロングトーンに終わる”と言っても過言ではないだろう。つまり、初心者が最初にやるロングトーンは実は奥が深く、熟練した奏者が行き着き、また、悩むのもロングトーンということだ。
 ロングトーンは基本中の基本だから、先々話すリップスラーやタンギングなども、このロングトーンを基本に成り立っている。ロングトーンがしっかりできれば、トロンボーンを扱うテクニックの半分以上はできたようなものだ。まさに、トロンボーン吹きにとってロングトーンは「命」なのだ!
 あれ?確か先月号で“トロンボーン吹きは発音が命”だって言ってたじゃないか・・・と思った君。いい所に気がついたねぇ。しかし、まだまだ甘いな。トロンボーン吹きには「命」がいくつあっても足りないのだ!これからもたくさん「命」がでてくるかもしれないから覚悟しておきなさい。

ロングトーンの大事なところ

 では、ロングトーンは何が難しく、何が大事なのか。それは、次の4項目だ。

  A 明確に発音されること。
  B 美しい音質であること。
  C 音量や音程、音質などが全く変化せず、まっすぐのびること。
  D 音の終わりに自然な余韻を残すこと。

A は、先月号をよく読んで実践すること。立ち上がりが破裂音になってしまう人や、音を出し始める瞬間に息が止まって、舌やのどに力が入ってしまう人は、ノータンギングの練習をたくさんやってみてください。

B は、とても重要。よい音で吹けなければ何の価値もありません。まずは、よい音をたくさん聴いて、よい音のイメージを持つことです。そして、「豊かな息」を常に意識することが大切。


 そして、今月最も注目したいのが、C だ。これを成功させるには、自分自身を肉体的にも精神的にも上手にコントロールすることが必要となる。根性や力技(ちからわざ)では決して成し得ない。たとえできたとしても、それは B を満たさないのだ。
 でも、逆に音を出すことを怖がったり、神経質になりすぎてもよくない。大事なのは「リラックス」と「集中力」だ。

 ロングトーンは、無理矢理まっすぐのばすことではない。「自然にまっすぐのびる環境をつくってあげる」ことだ。まず、こころを落ち着けて森林浴でもしているような気分になり、深呼吸を3回しよう。どんなに忙しくても、あわてていても、これだけはゆっくり、たっぷりおこなってほしい。
 まず、準備として譜例(1)を吹いてみよう。フェルマータしているときの音に安定感がでるように。コツは2つある。1つは、よけいな操作を一切おこなわないこと。意識しすぎてアンブシュアや口の中の容積が変わったりしないように。無心でやることが大切だ。もう1つは、息を出すイメージにある。10m、いや、50mむこうにいる人に届かせるようなイメージで息を出してほしい。50cmくらいで失速して落ちてしまうような息では絶対にうまくいかない。視点を遠くにおくことも重要だ。ベルやポジションなんか見てないで、いつも遠くを見て楽器を吹くくせをつけよう。