1996年 5月号

ウォーム・アップが上達を左右する!

 

 皆さん、元気ですか?新入生のパートも決まり、部活動も本格的に軌道にのってきた頃ではないでしょうか。
 今月から、私がいつも行っている「Warm up」のスケジュールを紹介しながら、トロンボーンを吹くための大事なポイントを押さえていきたいと思います。
 今回は“楽器を持つ前の”体の準備やトレーニングについて触れていきます。初心者の皆さんはもちろんだけれど「そんなこと分かってるよ!」と思っている上級者のキミもナメてかかっているとあとで大きな差がつくぞ。

まずはリラックスしよう

 昨年、私の教えている玉川大学でこんなことがありました。レッスンにやってくる生徒が皆、その日に限ってそろいもそろって調子が悪いのです。音がかたく、どうしても息が自然な状態で楽器の中に入っていかない感じで、当然ミストーンも多発していました。
 最初の3人ぐらいは偶然かとも思ったのですが、あまりにも皆同じような状態なので様子をきいてみると、ちょうどその週が試験やレポートの提出の時期で、充分な睡眠もとれず、不規則な生活が続いているとのこと。さらに、その日はコートを着ていても震える程寒い日でした。それでは、無理もありません。

 トロンボーンを吹くことは、筋肉を使った芸術です。体や筋肉が「良い状態」「自然な状態」に保たれていなければ多くのトラブルが発生してくるに決まっています。睡眠不足や寝過ぎ、不規則な生活、夜通しのファミコンや勉強、さらに寒さや精神的なストレスなどは筋肉にいらぬ緊張を生みます。トロンボーンを吹くのに特に邪魔になるのは、上半身(首と肩、胸)の筋肉のコリです。楽器を持つ前に、まずこの筋肉のこわばりを取り除く必要があります。だからといって、グニャグニャのタコのようになれと言っているわけではありません。リラックスするというのは、あくまでの「自然な状態」になることです。

 皆さんは、自分のからだから出ているかすかな信号(ちょっと肩が凝っているよとか、わきの筋肉が張っているよ、なんて感じ)によく注意し、耳を傾けて、自分自身の状態を理解して下さい。そして、それを改善するストレッチやマッサージを自分なりに工夫してみましょう。
 意識して力を入れるのは簡単ですが、意識して力を抜くのは意外と難しいものです。でも、これが大切な第一歩です。心を穏やかにしてあせらず取り組んで下さい。


肺をやる気にさせよう

 トロンボーンを吹くには大量の息が必要です。良い音で上手に演奏するための条件の大半は、この豊かな息に関わっていると私は信じています。
 ふだんの生活の中で、人間の肺はその機能のせいぜい半分ぐらいしか使っていません。友人と話をするのに思いっきり息を吸い込んでから声を出す人なんていませんよね。よほど激しい運動をしても、呼吸の数こそ増えるものの、肺が100%ふくらむ程の深い呼吸をすることはほとんどありません。
 皆さんは、そうやって肺を甘やかせているので、肺は「オレってこの程度のもんさ」と自分を過小評価しています。そこで一丁肺の目を覚まさせてやろうではありませんか!

 今、ストレッチをして身体のコリをほぐしたので身体はとても自然な状態です。さあ、椅子に深く腰掛けて下さい。背もたれを使っても構いません。ただし、背中に力を入れて反らせたりするのはよくありません。あくまで、自然なカーブを保って座って下さい。
 そうしたら両腕を横にダランと垂らして下さい。両方の足の裏が床に完全についていることもポイントです。とりあえず2〜3回深呼吸して下さい。
 次に譜例@のようにテンポ60ぐらいで、2拍で息を吸い、8拍かけて息を吐きます。この時の、重要なポイントは、まるまる2拍かけて肺を満タンにし、まるまる8拍かけて、これ以上吐けないところまで吐くことです。1拍で吸いきって息の流れが止まってしまったり、6拍ぐらいで吐く息がなくなったり、8拍たってもまだ息があまっていたりしないようにうまく調節して下さい。
 最初はうまくいかないかもしれないけれど、空気が動いていない時間を1秒たりともつくらないようにすることが大事です。そして、これを4回くり返すのを1セットとします。それでは、1セットやってみて下さい。

 ・・・いかがですか?ちょっとクラクラしませんか?「全然しないよ。平気だよ!」というキミ、たいへん男らしくてカッコいいのですが、それは本気でやっていない証拠です。肺の機能を100%、もしくは120%使ってこれを行うと相当クラクラするはずです。
 腹式呼吸だの胸式呼吸だのということは今はあまり意識する必要がありません。ただ、ダランと垂らした腕や肩に力を入れないこと、肺の底の方から順に息を詰め込むようなイメージを持って息を吸うこと、この2点には注意してください。また、息を吸う時の口の中の形は「ヒー」というような狭い感じではなく、「ホー」と言うようなつもりで広く大きく開けましょう。1セット終わったあとに「のどが渇いたなぁ!!」と思うくらい口の中やのどに空気を通してください。
 以上のことに注意し、1〜2分の休憩やストレッチを挟みながら、これを3〜4セット行ってみて下さい。あなたの肺が「なんだ、今まで怠けていたけど、オレってやればこんなにできるんじゃん。」と思ったらしめたもの。一面クリアといったところです。

 次号は、「アンブシュア」「バズィング」「マウスピースを使った練習」などです。見逃すと遅れをとるぞ!