1997年 2月号

3和音の秘密

 

 皆さん、元気ですか?先月号まででトロンボーンの基本的奏法に関する解説をひと通り終えたので、今月はその「応用編」といきましょう。

 皆さんは音楽を聴いていて「トロンボーンはいいなぁ」と思うのはどんなときですか?
ピュピューーーッとハイトーンを吹いているとき?
それとも、目にも止まらぬスライディングで超絶技巧を吹いているとき?
はたまた、力強いフォルテシモで聴衆を圧倒しているときでしょうか?

 トロンボーンには実に様々な魅力があります。特に、これらの派手な部分の魅力には皆さんも普段から注目していることでしょう。でも、私はトロンボーンの一番の醍醐味は、もっとずーーっと地味な「ハーモニー」にあると思うのです。

 トロンボーンは音質的にも音域的にも、また、機能的(スライドで音程を変える)にも、ハーモニーを演奏するのに向いています。世界一美しいハーモニーを演奏することができる楽器といっても過言ではないでしょう。
 しかし、この楽器もいい加減に吹いたのでは美しいハーモニーを作り出すことはできません。「和音」というものについての基礎知識と感覚のトレーニングが必要です。今月はそんなお勉強です。

ハーモニーはロングトーンの応用
 
まずはじめに、トロンボーンで上手にハーモニーを吹くためのチェック・ポイントを挙げておきましょう。
@他の音とよく混じり合う、ストレスのない音色で吹くこと。
A音の立ち上がりから終わりまで、微動だにせずまっすぐ吹くこと。
B正しい音程で吹くこと。
C音量のバランスを考えて吹くこと。

 @Aに関しては、ロングトーンの技術が要求されます。ハーモニーを吹くことはロングトーンの応用編だから、この技術が定着していないととても成功は望めません。詳しくはBP8〜9月号のセミナーとそれに至る「発音」などに関する号を参照のこと。簡単に音色のイメージだけあげると、丸い音、太い音、響きの多い音。「テーーー」というような感じの音ではなく「トーーー」という感じで、口に中の容積を広くとって吹けるととけやすい音色になります。また、息の到達点を遠くにイメージするとストレスのない音になります。突き抜けていってしまうような音色はハーモニーには不適切です。自分の音をよく聞いて、よい音でロングトーンする練習をたくさんしてください。

3和音の秘密
 
Bの「正しい音程」が分かるようになるには少々面倒くさい理論と感覚のトレーニングが必要です。和音の基本の形は「3和音」といって、譜例@のようにダンゴ状にくっついた3つの音です。簡単には「ド・ミ・ソ」のことです。この並び方の時、一番下の基準になる音(ドミソのド)のことを根音とよび、その上の音(ドミソのミ)のことを「第3音」と呼びます。これは、根音から順番に数えて、ド・レ・ミ と3つ目の音にあたるからです。同じように一番上の音を「第5音」と呼びます。

 3和音は「第3音」の種類によって「長3和音」と「短3和音」に分かれます。長調の明るい和音が「長3和音」、短調の暗い和音が「短3和音」と覚えても良いでしょう。これらの和音を美しく響かせるには、次のことを覚えてください。

「長3低め、短3高め」

 これは、「第3音」を吹くときの音程のとり方のコツです。長3和音では低めに、短3和音では高めにとってください。第5音は低くならないように注意します。これら「高く」とか「低く」という基準は、ピアノやチューナーの音より・・・ということです。だから皆さんは、チューニングの音だけでなく、全ての音をピアノやチューナーと同じように正確に吹けるようにするところから始めなければいけません。しかし、そんな気の長いことは言っていられないので、以上のような知識を踏まえた上で「感覚的」に「第5音」や「第3音」を捕まえられるような練習をした方がいいでしょう。それを譜例Aに載せておきます。最初は先生に聴いてもらいながら、美しい響きになるように微調整してもらってください。そして、だんだんその響きの感じを覚えていきましょう。言葉や数字でないものを覚えるというのは、慣れていないとなかなか大変だけど、音楽をする上ではとても大切な能力です。

 最後にCの音量のバランスは、根音が一番大きく、次に第5音、第3音は軽く上にのるように吹くのが基本です。まず基本の響きを耳で覚えてください。

 来月はついに最終回です。