1996年 11月号

リップスラー(1)

 

 皆さん、元気ですか?今月と来月の2回にわたって「リップスラー」の話をします。「リップスラー」という言葉は知っていますよね。そう、タンギングをせずに唇の操作によって音をなめらかに変えることです。

 まあ、とりあえず譜例@とAを吹いてみてください。Aの音を吹くときはしっかりと「発音のためのタンギング」をするのですが、Bの音に移るときには全くタンギングなしで吹いてほしいのです。初心者の皆さんの中には、どうしてもBの音でタンギングしてしまう人がいるかもしれません。特に譜例Aのような場合は、タンギングなしではBの音が出ないなんてことになっているかもしれませんね。・・・確かに、全くの初心者の皆さんには少々難しいかもしれませんが、ごまかさないで(タンギングしないで)何度も練習してみることが必要です。

 「リップスラーは苦手」という皆さんも少なくないでしょう。「苦手」だとか「できない」と決めつけて、あきらめてしまったらそれまでです。リップスラーは、毎日の練習の中で地道に積み上げていくものだから、簡単に放棄せず、必ずできると信じて取り組んでください。リップスラーは「練習あるのみ」です。それでは、がんばって!!また、来月・・・・・って終わってしまったら、このコーナーは何の意味もなくなってしまいます。「練習あるのみ」のリップスラーですが、なるべく効率よくコイツを攻略するために、今月は「リップスラー」の仕組みとちょっとしたコツをBP読者の皆さんだけにこっそり教えましょう。

ホースで水まき
 
皆さんは、庭やグランドにホースで水をまいたことがありますか?ある人もない人も下のイラストを見て想像してください。「3」のパネルに当たっている水を「4」のパネルに当てるようにするには、皆さんだったらどうしますか?そう、ホースの先をちょっとつまんで水を遠くまで飛ばしますね。逆に「4」から「3」に移すときは、ホースをつまんでいる右手の力をすこし緩めます。

 これはそのまま譜例@とAのリップスラーに例えられます。水は息、蛇口の開け具合は横隔膜による息の圧力、ホースの先のつまみ具合は唇の緊張にあたります。最初はどのくらいの力でつまめば「4」に当たるのか、どのくらい緩めれば「3」になるのかさっぱり分かりませんが、徐々に体がその感覚をつかんでいきます。これが、リップスラーの練習です。つまり、音の高さによる唇の締め具合の違いを体にインプットしていく作業なのです。

 譜例@のように、音が下がるときは比較的簡単。譜例Aのように音が上がるときにうまくいかない人は、蛇口がしっかり開いているかどうかを確認しましょう。唇の締め具合が充分でも、しっかりとした息圧がかかっていないと空気は遠くへ飛んでいきません。なるべくたくさん息を吸って、一定の圧力で遠くへ吐き出すように心がけてください。

 リップスラーは、実際の音楽の中でレガートを演奏するための実用品としてばかりでなく、唇の周りの筋肉を鍛えるトレーニングとしてもとても重要です。音のコントロールや安定感、ハイトーン克服への鍵となるから、毎日欠かさず練習してください。

 次号ではもうすこし複雑なリップスラーと息圧のコントロールについて、また、音の高さと口の中の広さの関係について紹介します。譜例@ABを、なるべく遠くを見ながら練習しておくように!